インプラントの表面性状のひとつとしてアパタイトコーティングインプラント(HA:ハイドロキシアパタイト)があります。
一口にHA コーティングといってもメーカーによって内容に違いがありますが、ここでは国産のミューワンインプラントを例にとって説明します。
以前は、アパタイトコーティングというと見た目にも白くいかにもチタンインプラントの表面にHA をまぶしたようなものがありました。
最近 千葉市若葉区の桜木消防署近くの原田歯科でよく使うのは、わかりやすい例で言うとCDやDVDの裏面のように薄い膜状にコーティングしてあるものです。
例えばミューワンインプラントの場合、スパッタリングという手法を用いています。
これは工業界で行われている方法で、真空中でアルゴンイオンをハイドロキシアパタイトをターゲットに衝突させ、HAの原子または分子を叩き出すことで、インプラントフィクスチャー部となるチタン基材表面にHAの緻密な薄膜を均一に形成させることができる、HA薄膜コーティング技術です。
スパッタリングにより形成されたHA薄膜は、基材であるチタンとの密着強度がきわめて高く、剥離などのリスクはほとんどありません。
また、HAは早期に骨と結合(バイオインテグレーション)し、長期には骨に取り込まれ、徐々に置き換わり、長期に安定した骨結合(オッセオインテグレーション)の状態を保ちます。
スパッタイトのチタン基材との密着強さを調べるため、硬い樹脂を用いて高いトルクをかけて樹脂に作成した小さな下穴に、HAインプラントをねじ込んだ時の剥離を評価する実験を行いました。
試験方法は埋入後の剥離の有無を厳密に評価するために、骨のようにアパタイトを含まない材料で、緻密骨に物性の近いPMMA樹脂を使用しました。
測定点として、埋入時に最もトルクのかかる点として、特に先端テーパーの終了部、ネジの終了部、ネジの最上部、ネジのなくなるストレート部の下点の3か所を選び、それぞれ切り欠き部両端2か所について、埋入前後でのカルシウム、リンの分析を行い、膜厚を算定しました。
その結果、その3点での各2か所で測定した結果をまとめました。
最終ドリル径を変え、インプラントを埋入したところ、最大140Ncmもの過重なトルクがかかりましたが、試験の前後でのHA膜厚変化は見られませんでした。
この結果、トルク140Ncm でもスパッタイトは剥離しないことがわかりました。
スパッタイトの骨結合強さ
イヌの大腿骨に4mm × 10mm のチタンを基材とし、それに2種類の膜厚 1.5mm,0.1mmのスパッタイトを、チタン単体を対照として、埋入2,4,12,24週後の引き抜き試験を行い、骨結合強度を比較しました。
その結果、チタン単体は埋め込み期間に依存して骨結合力が上がり、骨との結合が時間とともに増していました。
プラズマ溶射法、熱分解法は、埋め込み4週後まで骨結合力が急激に増加し、この時点でチタン単体の6〜8倍に相当しました。
また、プラズマ溶射法、熱分解法の2週後の骨結合力はチタン単体の24週後の骨結合力とすでに同レベルに達していました。
一方、スパッタイトは、膜厚0.1ミクロンでもプラズマ溶射、熱分解とほぼ同等でした。
膜厚1.5ミクロンでは、これよりもさらに大きな骨結合力を示し、きわめて早期に新生骨との結合を促し、良好な骨伝導を伴って、骨結合力を高めたものと思われます。
膜厚0.1ミクロンは、4週後以降、チタン単体と同様な傾きを示したことは、HAコーティングが早期に吸収されてチタンと同様の骨挙動を示したものと思われます。
1.5ミクロンでは、骨結合に十分な膜厚のため、12週後,24週後も骨結合強度は大きく上昇しました。
スパッタイトは長期には吸収されてチタン単体と同様な挙動となると思われ、HA膜の脆弱化による懸念はないと思われます。
ハイドロキシアパタイトのインプラント
ハイドロキシアパタイトとは、カルシウムやリンなどからできていてアゴの骨にも含まれます。つまり、ハイドロキシアパタイトはアゴの骨の成分なのです。従って、これをインプラントとして使うという考えは1980年代からありました。
初期のハイドロキシアパタイト・インプラントは何とハイドロキシアパタイト自体でインプラントを作ったのです。これは言ってみれば、骨と同じ硬さの素材でインプラントを作ったことと同じです。骨と歯では求められる硬さが違います。歯はものを噛まないといけないので、かなり固くないといけません。
例えば、歯の最も表面にあるエナメル質は人間の体の中で最も硬い物質です。
しかし、骨は歯よりも強度が弱いのでこのハイドロキシアパタイト単体のインプラントはトラブルが多発して消滅しました。その後に出て来たのはインプラント素材のチタンの表面にハイドロキシアパタイト(以下、アパタイトと略します)をコーティングしたものです。チタンは金属ですから強度は十分です。
ただ、初期のハイドロキシアパタイト・コーティングは技術面で今と比べて劣っておりアパタイト自体がインプラントから剥離してくる事例が出てきました。そんなことが原因となり今でも世界の中ではアパタイトを使ってインプラントは反主流です。
ただ、欧米人のようなデカい躯体の方ならアゴの骨も大きいので13ミリとか15ミリなど長いインプラントを入れられます。インプラントの標準的な長さが10ミリですから、13ミリとか15ミリというのは3割増し、5割増しです。これは歯科医師の視点で結構すごいことです。日本人、韓国人、中国人などアジア系の人にはこれだけの長さのインプラントを入れられるケースはとても少ないです。
というのはアゴの中には太い神経や血管があるので、これを傷つけたら大変なことになりますから、安全第一を考えて神経や血管を避けてかなり慎重にインプラントしないといけません。実際、アゴの骨が小さめな女性だと(小顔ならぬ小アゴですね)標準的な10ミリどころかそれより短い8ミリとか6ミリのインプラントしか入れられないこともあります。そうなるとインプラントが短いということは、インプラントの表面積も小さいのでインプラントの表面にアパタイトをコーティングして インプラントとアゴの骨の付きを良くせざるを得ません。
かつて1990年代まではアパタイト自体がインプラントから剥離してくる事例がありました。しかし、その後 技術が進んでその問題は解決されました。
これは専門用語でスパッタリングという手法を使うことによって解決されたのです。
詳しい話はこのページの上に書いてありますが、スパッタリングとは工業界で使われている手法です。もう少しわかりやすく言うとアパタイトをインプラントの表面にCDやDVDの裏面のように薄い膜状にコーティングする方法です。
スパッタリングにより形成されたアパタイトの薄膜は、基材であるチタンとの密着強度がきわめて高く、剥離などのリスクはほとんどありません。
また、アパタイトは早期に骨と結合(バイオインテグレーション)し、長期には骨に取り込まれ、徐々に置き換わり、長期に安定した骨結合(オッセオインテグレーション)の状態を保ちます。
なので、ハイドロキシアパタイト・コーティング・インプラントは結構良いものです。